◆シラノドベルジュラック

韻文戯曲。五幕。(岩波文庫、エドモン・ロスタン作、辰野隆、鈴木信太郎訳)

シラノは材木を頭上に落とされ、瀕死の傷を押して修道院に辿り着き、ロクサアヌの前で悲壮な死を迎えている。そして、たそがれの中涙と血が滲んだクリスチャンの遺書を諳んじて読み、ロクサアヌが真実を覚った後の大六齣……

 

「うん。そうだ!私の新聞をまだ読み終わっていなかった。……然り而して土曜、二十六日、晩餐に先立つ一時間、ド・ベルジュラック氏遂に暗殺に斃る。」

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「いや、一体全体どう魔がさして、一体全体、どう魔がさして、そんな船に乗り込んだのだ?…

哲学者たり、理学者たり、

詩人、剣客、音楽家、

将た天界の旅行者たり、

打てば響く毒舌の名人、

さてはまた私の心なき――恋愛の殉教者――

エルキュウル・サヴィニャン・

ド・シラノ・ド・ベルジュラック此処に眠る、

彼は全てなりき、而して亦空なりき。

……だが、もう逝こう、では失礼、そう待たしてもおけない、御覧なさい、月の光が迎えに来ましたからなあ!」

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「うん、貴様達は俺のものを皆奪る気だな、桂の冠も、薔薇の花も!さあ奪れ!だがな、お気の毒だが、貴様達にゃどうしたって奪りきれぬ佳いものを、俺ゃあの世に持って行くのだ。それも今夜だ、俺の永遠の幸福で蒼空の道、広々と掃き清め、神のふところに入る途すがら、はばかりながら皺一つ汚点一つ附けずに持って行くのだ、

他でもない、そりゃあ……」

「私の羽根飾(こころいき)だ。」

―― 幕、大団円 ――